著者はあの「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」を書いた増田俊也。その中
でも触れられていた高専柔道を描いた自伝的小説です。
「七帝戦」と聞くと、旧帝大系の競技会というちょっとぬるいイメージしかなかったのですが、七帝戦の発祥となった七帝柔道は旧高専柔道と違ったとんでもない世界でした。
現在の主流(というか柔道そのものですが)の柔道は講道館柔道。その講道館が禁じた引き込み寝技を中心にした「高専柔道」をずっとやっている旧帝大系の柔道部。15人抜きの団体戦である七帝戦で勝つために、ひたすら寝技の練習。そこでも役割が分かれ、「カメ」の選手は寝技で引き分けることのみを目的にした練習です。関節を決められても、絞められても決して「参った」とは言わない。そのために普段の練習では絞めて落とされます。
柔道は格闘技で、練習の中心は乱取。そこで先輩に決められ、落とされる毎日。しかもその目的は陽の当る全国大会や甲子園ボウルでもなく七帝戦。
主人公はその七帝柔道をやりに2浪して北大入学。柔道部に入部して、2年の春の七帝までを描いた物語ですが、非常に濃い、バンカラ体育会世界が繰り広げられます。体
育会と言っても理不尽な上下関係ではありません。勝つための練習以外では後半に非常にやさしい先輩たち。
この中で主人公は逡巡しながら、七帝戦で勝利を上げるためだけに柔道だけの世界に入り込みます。
「練習量だけが勝負を決する」という高専柔道。ただそこを極めてもプロになれる訳でもなく、損得だけを考えては到底割に合わない、その魅力的な世界に浸れる580ページの至福の時間です。
物語は2年目(2回生)の夏で終わってしまいます。早く続きが出てくれないか、今から楽しみです。